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つぶやきといふ名のぼやき
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いつでも悪いのは春子だ。

夏子が春子の描いた絵を春子のクレヨンでめちやくちやにしたのも、
秋子が春子のお気に入りのスカートを勝手に履いてかぎさぎを作つたのも、
冬子が春子の食べるはずだつたお菓子を食べてしまつたのも、

そして、その結果、夏子は春子に平手打ちを喰らひ、秋子は殴られ、冬子は髪の毛をひつぱられ、
さらのその結果、夏子や秋子、冬子から報復を受ける、
さうしたことのすべては、春子のせゐ。
春子が悪いのだ。

母はさう云つて春子を叱る。
いやさ、母はさう云つて春子を怒る。

春子にはわからない。
なぜ自分だけ怒られるのか、
なぜ自分だけ母から殴られるのか、
なぜ自分だけが悪いのか、
春子には理解できない。

そのうち春子は思ふやうになる。
きつと全部自分が悪いのだ。
自分が正しいことなんて、この世にありはしないのだ。
その証拠に、母も妹たちも、いつでもなにもかも春子のせゐだと口を揃へて云ふではないか。
しかも、妹たちはあれだけ「悪い」ことをして、なにひとつ罰を受けることもない。
いつでも母の背後に庇護されてゐる。

なにもかも自分が悪いのだ。

さう思ひ込む一方で、春子はまた、自分が正しいのだと確信する。
もし自分が自分を正しいと信じなかつたら、いつたいこの世のたれが春子を正しいと云つてくれるのだらうか。
正しいのは自分。
まちがつてゐるのは自分以外の存在。

多分春子は待つてゐる。
彼女自身は知らずとも、きつと無意識のうちに待つてゐる。
「春子はなにも悪くないよ」と云つてくれる存在のあらはれることを。
そして、そのときこそ、春子はやつと解放されるのである。

けれどもやはり春子は知つてゐる。
気づいてゐないかもしれないが、はつきりとわかつてゐる。
そんな日の来ることはないことを。
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